ノッティングヒルの思い出
「ノッティングヒルの恋人」が大好きだ。
ヒューグラント演じる冴えない本屋の店員ウィリアムとジュリアロバーツ演じるハリウッド女優アナという、住む世界が全く違う2人の恋を描いたコテコテのラブコメ映画だ。だが若い時は「ノッティングヒルの恋人が好き」というのが自分の中で恥ずかしくて好きな映画を聞かれた時には「メメント」とか「ショーシャンクの空に」と答えていた。両方好きなのは本当なのだが。
一度職場の飲み会で自己紹介のついでに好きな映画を一本発表するという流れがあった。
その時、満を辞してノッティングヒルの恋人を挙げてみたところ「意外と繊細なのねぇ...でもなんか分かる」と職場にいた65歳くらいのオネエ口調のおじさんにじっと見つめられながら言われ、すごい恥ずかしかった。
好きな映画を言っただけで色々見透かされたような気持ちになり、隠していたはずのセンチメンタルな部分が飲み会のメンバー、とくにオネエのおじさんに筒抜けになったような気分になった。
ただもうノッティングヒルの恋人を合計10回以上見ている。
ウィリアムは顔はイケメンなんだけど"イケてない感"がうまい具合に演出されている。「あ、この人こっち側だ」とイケてない自分とヒューグラントを重ね合わせて共鳴できるようになっている。そんな"こっち側の人間"が"あっち側"のハリウッド女優と恋をするのだから夢がある。自分にもハリウッド女優みたいな人と巡り会うチャンスがあるんじゃないか、と思わせてくれるほどではないけど、それに近しい幻想を見せてくれる。
20歳の時、はじめてできた彼女にノッティングヒルの恋人を見せたことがあった。お金がなくて漫画喫茶の狭い個室で。
その頃はまだ「メメント」と「ショーシャンクの空に」を自分の"好きな映画"にしていた頃だったのだが、彼女にはあえて自分のピュアな一面を見せようと思ったのだと思う。
ぼくはこの映画のコメディパートが好きでめちゃくちゃ笑ってしまう。
だがショーシャンクとメメントで自分のイメージをハードに固めていたので、ハートフルなラブコメのコメディパートでツボっている自分を素直に出せなかった。しかも彼女のツボに刺さっていればまだマシなのだけど、全然ツボってない。この映画の一番の笑いどころで彼女の表情がパクリともしていないので自分がめちゃくちゃスベッてる気分になってきた。静かな漫画喫茶の個室でとにかく耐えた。
だけど彼女を後ろから抱擁しているぼくの身体は意に反して小刻みに揺れていた。なんせ大好きなコメディパートなので笑いが我慢できなかった。振動は確実に彼女に伝わっていたと思う。
今になると何をそんなに我慢していたのか分からないし素直に笑ってしまえばいいと思うけど、守りたい何かがあったのだと思う。
そんな思い出深いぼくは今後もノッティングヒルの恋人を見続けると思う。見てない人はぜひ観てみてね。
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